役員報酬 変更のタイミングはいつ?3カ月ルールと手順を解説

- 役員報酬の変更は原則「事業年度開始から3カ月以内」に行う。
- 期中に安易に増額すると、増額分が損金不算入になり法人税が増える。
- 例外は「臨時改定事由」と「業績悪化改定事由」の2つだけ。
- 変更には株主総会の決議と議事録の作成・保管が必須。
- 役員報酬を変えると社会保険料も随時改定で変わる可能性がある。
役員報酬を変更できるタイミングはいつ?基本ルール

役員報酬を変更できるのは、原則として事業年度が始まってから3カ月以内です。
なぜこの縛りがあるのか。役員報酬は経営者が自分で金額を決められてしまうので、利益が出そうな年度末に「じゃあ役員報酬を上げて利益を消そう」といった調整を防ぐためです。ここを理解しておくと、3カ月ルールが単なる嫌がらせではないと腑に落ちます。
原則は事業年度開始から3カ月以内
3月決算の会社なら、4月1日から6月30日までが変更のリミットです。
多くの会社が期首(4月)に定時株主総会を開き、そこで新しい役員報酬を決めます。私の会社も決算を締めて、数字が固まった直後に翌期の報酬を決める流れにしています。
国税庁も、定期同額給与について「その事業年度の各支給時期における支給額が同額であるもの」等と定めています。
役員報酬は「定期同額給与」が基本
役員報酬で損金にできる大原則は「毎月同じ額を払う」こと、いわゆる定期同額給与です。
毎月30万円なら、1年間30万円で通す。途中で「今月だけ50万円」とやると、その差額が問題になります。
賞与のように波をつけて払いたいなら、後述する事前確定届出給与という別の枠組みを使う必要があります。役員は従業員と違って、思いつきでボーナスを足せません。
3カ月を過ぎた変更が税務上損になる理由
3カ月を過ぎて増額すると、増やした差額分が損金不算入になり、その分だけ法人税の対象になります。
たとえば期の途中で月30万円を月50万円に上げたとします。増額した20万円のうち、税務上で経費と認められない部分が出てきます。会社からは現金が出ていくのに、経費にはならない。二重で損をする感覚です。
事業年度の途中でも役員報酬を変更できるケース
3カ月を過ぎても変更が認められる例外は、「臨時改定事由」と「業績悪化改定事由」の2つに限られます。

どちらも「経営上どうしても変えざるを得なかった」という客観的な理由が必要です。節税目的で使える抜け道ではありません。
臨時改定事由に該当する場合
臨時改定事由とは、役員の職務内容が期中に大きく変わったときに認められる変更です。
典型例は、社長が病気で退き、専務が代表に昇格するケース。役職が変われば責任も変わるので、報酬を変えるのは自然だという理屈です。
業績悪化改定事由に該当する場合
業績悪化改定事由は、経営が著しく悪化して報酬を「下げる」場合に認められます。
ポイントは、原則として減額方向でしか使えないこと。売上が急落して資金繰りが厳しく、取引先や銀行への説明上も役員報酬を下げざるを得ない、といった状況が想定されます。
「なんとなく利益が減りそう」程度では通りません。第三者への影響が説明できるレベルの悪化が必要です。
認められるための証拠と判断基準
例外が認められるかどうかは、後から客観的に説明できる証拠が残っているかで決まります。
| 事由 | 主な場面 | 残しておきたい証拠 |
|---|---|---|
| 臨時改定事由 | 代表交代・役職変更・職務内容の大幅変更 | 新旧の役職を示す株主総会・取締役会議事録 |
| 業績悪化改定事由 | 売上急落・資金繰り悪化で減額が必要 | 業績が分かる試算表、銀行・取引先向けの説明資料 |
役員報酬変更の手順|所要時間と難易度の目安
役員報酬の変更は、金額決定から議事録作成まで、実務としては1日〜数日で完了します。

難易度で言えば、一人社長なら正直そこまで難しくありません。必要なのは、金額の根拠と株主総会の決議、そして議事録という紙の証拠です。ここでは4ステップで整理します。
- 所要時間の目安:一人社長で半日〜1日、複数役員でも数日。
- 難易度の目安:手続き自体は易しい。難しいのは「いくらにするか」の判断。
- 前提条件:決算数字が固まっていること、変更が事業年度開始3カ月以内であること。
- 必要な道具:株主名簿、議事録のひな形、会社実印。
1. 変更後の役員報酬額を決める
まず、翌期の月額をいくらにするかを決めます。
ここが一番頭を使うところ。手取り、社会保険料、法人に残す利益、この3つのバランスで決まります。決算予測が固まっていないと決められないので、決算作業とセットで動くのが現実的です。
確認の目安:新しい月額と、それに対応する年間の社会保険料・所得税のざっくりした見当がついていればOK。
2. 株主総会の招集通知を出す
次に、株主に対して株主総会の招集通知を出します。
一人社長で株主も自分だけなら、実務上は招集手続きを省略できる場合が多く、書面決議で済ませることもあります。複数株主がいるなら、日時・場所・議題を通知します。
確認の目安:株主全員に「いつ・何を決めるか」が伝わっていれば次に進めます。
3. 株主総会を開催し決議する
株主総会を開き、役員報酬の総額(または各人の額)を決議します。
つまずきやすいのが、定款で役員報酬の枠が決まっている場合。枠を超えるなら定款変更か、株主総会で枠自体の変更決議が要ります。うまくいかないときは、自社の定款の役員報酬条項を先に確認してください。
確認の目安:総額または各役員の月額が、議案として可決されていること。
4. 株主総会議事録を作成・保管する
最後に、決議の内容を株主総会議事録として文書に残します。
これが一番大事です。役員報酬は「決めた証拠」がないと、税務調査で「本当にその金額を正しく決議したのか」を問われます。口約束は通用しません。
この手順を踏めば、期首3カ月以内の役員報酬変更が、税務上も問題ない形で完了します。
役員報酬の3類型と使い分け|定期同額・事前確定届出・業績連動

損金にできる役員給与は、定期同額給与・事前確定届出給与・業績連動給与の3種類しかありません。
中小企業で実際に使うのは、ほぼ前の2つです。それぞれ届出や要件が違うので、表で整理します。
| 類型 | 支払い方 | 事前の届出 | 主な使いどころ |
|---|---|---|---|
| 定期同額給与 | 毎月ほぼ同額 | 不要 | 役員の基本報酬(ほとんどの会社の主軸) |
| 事前確定届出給与 | 決めた時期に決めた額を支給 | 必要(税務署へ届出) | 役員に賞与を出したいとき |
| 業績連動給与 | 利益等の指標に連動 | 有価証券報告書での開示等が前提 | 上場企業・大企業向け |
定期同額給与の要件
定期同額給与は、毎月同じ額を払っていれば、届出なしで全額を損金にできます。
中小企業の役員報酬は基本これ一本で回せます。私も月額を1年間まったく動かさない前提で設計しています。
事前確定届出給与と役員賞与の届出
役員にボーナスを出して損金にしたいなら、事前確定届出給与として事前に税務署へ届け出る必要があります。
届出には期限があり、原則として株主総会決議日から1カ月以内、または事業年度開始日から4カ月以内のいずれか早い日までです。しかも、届け出た「日付」と「金額」ぴったりに払わないと、全額が損金として認められないことがある。1円ズレても、1日ズレてもダメというシビアさです。
業績連動給与が使えるケース
業績連動給与は、利益などの指標に応じて額を決める仕組みで、実質的に上場企業・大企業向けです。
算定方法の開示など厳しい要件があり、非同族の中小企業では使う場面はほぼありません。ここは「うちには関係ない」で切り上げてよい論点です。
役員報酬変更にともなう社会保険と税金への影響
役員報酬を変えると、法人税だけでなく社会保険料が随時改定で変わり、手取りにも直結します。

正直、経営者が一番見落とすのはここです。報酬を上げたのに社会保険料の増加で手取りがほとんど増えなかった、という話は珍しくありません。
月額変更届(随時改定)の手続きと反映時期
役員報酬を変えて標準報酬月額に2等級以上の差が出ると、随時改定の対象になり月額変更届を出します。
日本年金機構の随時改定は、固定的賃金が変動した月から連続3カ月の平均が、従前と2等級以上変わった場合に行うとされています。つまり変更した瞬間ではなく、3カ月様子を見てから反映される仕組みです。
社会保険料が変わるタイミング
随時改定による社会保険料の変更は、変更月から数えて4カ月目から反映されます。
たとえば4月に報酬を上げたら、社会保険料が変わるのは7月分から。ここにタイムラグがあることを知らないと、資金繰りの読みがズレます。
所得税・住民税・法人税への影響の考え方
役員報酬の増減は、法人税(会社)と所得税・住民税(個人)の綱引きになります。
報酬を上げれば会社の利益(=法人税の対象)は減りますが、個人の所得税・住民税は増える。逆に下げれば会社に利益が残り法人税がかかる。どちらか片方だけを見て「節税できた」と思うのは危険です。
会社の形態・特殊なケース別の注意点
一人社長・同族会社・設立初年度など、会社の形態によって3カ月ルールの起算日や落とし穴が変わります。

自分がどのケースに当てはまるか、着手前に一度確認しておくと事故を防げます。
一人社長・同族会社・複数役員の場合
一人社長でも、役員報酬の変更には株主総会議事録が必要です。
「自分一人だから決議も何もない」と省略しがちですが、ここが調査で狙われます。同族会社は特に、家族への報酬が職務実態に見合っているかも見られます。複数役員なら、各人の額を決議で明確にしておくこと。
設立初年度や決算期変更時の3カ月ルールの起算日
設立初年度は「事業年度開始から3カ月以内」ではなく、設立日から3カ月以内が変更のリミットになります。
会社を作ってすぐの時期は、最初の役員報酬を設立から3カ月以内に決めておく。ここを逃すと、初年度は途中で金額を動かせなくなります。決算期を変更した場合も、新しい事業年度の開始日が起算日になります。
誤った変更で損金不算入・否認になる例
最も多い否認パターンは、期中に理由なく増額し、議事録もないケースです。
| やってしまいがちな行動 | 何が問題か |
|---|---|
| 期の途中で理由なく報酬を増額 | 増額分が定期同額から外れ損金不算入 |
| 賞与を届出なしで役員に支給 | 事前確定届出給与に該当せず損金不算入 |
| 決議はしたが議事録を作っていない | 決めた証拠がなく金額の正当性を否認されやすい |
| 届出額と1円違う賞与を支給 | 事前確定届出給与として全額否認されることがある |
役員報酬変更でつまずかないためのチェックと専門家の使い方

変更に着手する前に、金額・時期・書類の3点をチェックすれば、大きな失敗はほぼ防げます。
